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◆◆酒場にて【陰式未来IF】◆◆
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とっくに意識の無い諸刃を膝に抱えたまま彼は眠りに落ちたようだった。
「おやすみ、常磐」
声をかけると常磐は一瞬表情をやわらかくした気もする。
もう少し。深く眠ってから横になれる場所に移動させるか。そんな事を考えながら置いていた箸を取った。
「絆か……」
ぽつりと呟いた声は誰の耳にも届かず空気を揺らしただけだった。
意外だったのだ。まさか同じように考えていたなんて。
シオンや諸刃、師匠。今までも人ならざる者達とは深く関わりを持った方だった。だが、何時の時も彼らとの”絆”に縋るのは自分ばかりだった気がする。それは、漠然と”人間”と”妖”の違いなのか、と。そんなふうに感じた事さえある。
「お前達の…ああ、そうだな。”絆”は眩しい…」
ふ、と笑みが零れる。常磐のその言葉を思い出すと酷く嬉しくなったからだ。
”絆”を、愛しいと言った。そして何度も愛しいと言いながら、”苦しい”とも言った……。どちらも本音なのだろう、と。
常磐が過去に失ったもの、その大きさを思えば当然なのかも知れない。それ(過去)がどれだけ辛かったのか、今、どれだけの不安となって常磐にのしかかっているのか。俺ではわかりようもない。けれど不安に思っているのが、俺とのこれからの事なら。俺にも出来ることがあるのだと思う。だから声に出して言いたくなったんだ。絆を築いていきたいと……俺と常磐なら出来ると。本当に、そう思うから……。
酷く静かになったその空間に自分の言葉が木霊する。ああ、つい口をついて出てしまったようだ。それは、いつかの誓いの言葉……――
「証明するよ。必ず」
変わらない思いがある事を諸刃に。
共に生きて行く事を常磐に。
二人からは返事は無かったが、代わりにグラスの中で溶けた氷が、カランと一つ音をたてた。
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